私は知らない。 気まぐれな貴方がどこで何をしているかなんて。 私は知らない。 優しい貴方がどこで誰かを癒しているなんて。 私は知らない。 こんなにも貴方に愛されていることを。 送られてきたプレゼントに添えられたカードに涙を落とす。 短い文に、篭められた想い。 ねえ、ジン。今すぐ貴方にあいたい。 |
素直じゃなくてごめんなさい。 せっかく会いにきてくれたのに扉を閉ざしてしまった。 意地っ張りでごめんなさい。 からかわれたことに対してこんなに腹を立ててる。 嫉妬深くてごめんなさい。 何処かに貴方が行くことに無性に寂しさを感じている。 ごめんね ごめんね ごめんね 貴方は世界を愛するドロボウさん。 でも、私は、私だけを見てくれている貴方がいいの。 ああ、貴方を縛りたくないのに、私のわがままで縛ってしまっている。 ごめんね |
「ありがとう。」 そう颯爽と微笑む貴方に 私こそ言いたい。 「ありがとう。」 心を盗んでくれたこと。 |
告げたときの彼の痛そうな表情が瞼の裏に焼きついて離れない。 私も同じぐらい痛かったからかな? 別れを告げたのはお互いのため。 貴方は世界を旅する自由の風 私は自由の檻の中の人形 一緒にいるわけにはいかなくて。 だって、風は吹き抜けていくからこそ風であるの。 その場に留まってはよどんだ空気と一緒。 だから私は窓を開けて貴方を送り出す。 吹き抜けていくその心地よさを、私は愛したの。 だから、ジン。 私の愛した、ジン。 今も愛してる、ジン。 さよなら、しましょ? いつかまた巡り会う、その日まで。 |
「君になら、奪われていいかな?」 何を? 「今まで俺が手がけたお宝全部。」 お宝? 「世界中のありとあらゆる珍品。」 そんなものに私が興味あると思ってる? 「・・・・わからない。」 そうでしょ? 「でも、欲しいものがあったら何だってあげる。」 ほんとう? 「言ってみて。それを俺から奪わせてあげる。」 「偽りはナシよ、ジン。」 「もちろん。」 そういってジンはウインクした。だから私は欲しいものを言った。彼の耳元で。 「すきだよ。」 そして貴方から、貴方を奪う。 |
追いつきたくて、手を伸ばした。 でも、その手を貴方はするりとかわす。 どうして、こんなにも努力しているのに。 貴方を掴むことができないのだろう? 飛びついても、罠を仕掛けても。 こんなに貴方に追いつきたいのに。 まるで貴方は私の一歩先を行く未来人。 ねえ、ジン。貴方は私の未来なの? |
落涙がこれほど綺麗だとは思わなかった。 はらはらと落ちていく涙の粒を、泰明はただ見つめていた。 泣いているあかねに、ただ見とれていた。 「私は、争いたくないんです。」 異世界から喚ばれた娘。 この国の運命を背負った娘。 突然渦中に身を突き落とされた娘。 「・・・神子。」 何故だか彼女に触れたくなった。その頬に触れ、涙を己の指でぬぐう。 「神子・・・。」 ただ、彼女を見つめていた。 「ごめんなさい・・・。でも、もう誰も傷ついて欲しくないんです・・・。」 そういって、また新たな涙をこぼす。 泣けばいい。 そう思った。泣いて、泣いて、泣いて。その涙の粒でできる川で全てを洗い流せばいい。 その川と共に己の役目も果たしたい、そう思った。 だが、それとは反対の言葉がこぼれた。 「泣くな・・・。」 彼女の流した涙。零れ落ちる数だけ、彼女を救ってやりたいと思った。 だから、彼女と共に生きたいと思ったのだ。 |
天は、本当に私を見ているのか? いくつもの国が沈むのを、利広はその目で見てきた。 争いが起こった国、突如として禅譲で倒れた国、いろいろな国があった。 「だからかな、こんなに寂しいのは。」 「・・・利広様。」 「昭彰にそんな顔をさせたいわけじゃないよ。」 己が国の麒麟の肩を、あやすように利広は叩いた。 「この国も、いずれ沈む。」 「・・・壊れぬものは、ありませんもの・・・。」 そうつぶやいた昭彰に利広は笑った。 「昭彰。ごめん・・・。」 「?」 首をかしげた昭彰の肩に、利広は己の頭を置いた。 「少しだけ、こうさせてくれ・・・。」 「・・・・はい。」 昭彰は素直に頷いた。彼女にはわかっていた。 他国が沈むたびに、この男の心にも傷がついていっていることを。 「利広様。」 「・・・なんだい?」 「国が沈むその日まで、私の命がつきるその時まで、私は笑っております。」 「・・・・うん。ありがとう。」 天は、何のために王をつくったのだろう?天が治めれば、このように苦しむ人はいないのに・・・。 利広の髪をすきながら、心優しい麒麟はそう思った。 |
「愛とは形が無いものだ。」 そんなの当たり前だ。 「だから、与えられても気づかないし与えても気づかれない、そんなことが起こってくる。」 それは知っている。 「それでも、お前はそれを与えようとするのか?」 形の無いものを。 気づいて貰えなくても。 「だって、愛しているんだ。」 まっすぐな瞳で、ジンは私に言った? 「形が無いのに、不確かなものを私に信じろと、ジンは言うんだね。」 彼の表情が凍った。だって、仕方ないじゃない。 そんな不確かなもの、信じられないんだから。 信じて欲しかったら、形にして頂戴。 |
あの人じゃなくちゃだめなんだ。 あの人以外じゃ意味が無い。 だから、だから。 あんたは、いらないんだ。 そういった彼のほうが泣き出しそうで。私は彼に背を向けるしかできなかった。 言いたかった言葉があったのに。 「私は、誰かの代わりになりたいわけじゃないわ。」 |
大切なものを探す旅に出たのだ、私はそう判断した。 だってそう判断しなければ、今・・・。 優しい声が降ってくる。 私を気遣った声が。 ううん、大丈夫。 今、私は幸せをかみしめているだけだから。 今、隣に貴方がいることが。 旅路で見つけた貴方がいることが。 私にとっての、大切なものである貴方が・・・。 |
手を伸ばすと、それは消えた。 それを話すと、老師は未来だといった。 未来。 それは不確かなもので。 確かにあるもの。 老師は言った。 夢こそが、未来の存在を告げるものだと。 私はその意味をまだ理解できていない。 私なりに解釈してみても釈然としない。 夢とは願望。 願望とは己の心。 己の心は自分を動かす。 自分を動かせば道が開ける。 それが未来を作るから、夢は未来なのか? だが。 夢で私は何かを失った。 それはただの夢?それとも未来? 答えは己の心にある。 |
貴方の手の中に、私の命(こころ)がある。 貴方が撫でれば、私は幸せな気持ちになる。 貴方が傷をつければ、私は血を流す。 貴方が握り締めれば、私は苦しむ。 全ては貴方次第。 私の全てを奪ったドロボウさん。 貴方は何のために私の命を奪ったの? 貴方の動作ひとつで私の全てが決まる。 私の命を握るドロボウさん。 貴方は私に何を求めるのでしょうね? |
殺してやりたい、そう思ってた。 でも、実際に何も知らずに出会って。 本当のことを話してもらって。 ああ、私は愚かだなって思った。 本当の貴方を見ていなかった。 自分が、悔しかった。 誰も止められず、自分のかわいそうな部分ばかり見つめていた。 ああ、過去に戻って、自分を討ってしまいたい! そうすれば、より大勢の人が救われたのだ。 なんと愚かな私。 罪の意識を持つだけで罪滅ぼしになると思いますか? |
忘れられているであろう頃に手紙を出しました。 元気ですか? どこにいるかわからないのでこの郵便屋さんに頼みました。 私は元気です。 貴方たちがいなくなった直後は刺激不足で毎日が味気ありませんでした。 今は自分から何かを変えようと、万屋を開いてみました。 毎日いろんなことがあって退屈しません。 貴方たちといた頃に比べれば序の口かもしれませんけれども。 私がこんなに変れたのは貴方たちのおかげです。 部屋に引っ込んで空ばかり眺めていたあの頃が嘘のようです。 本当にどのようにお礼をしていいのかわかりません。 こんな手紙だけでは言い表すことができません。 本当にありがとうございました。 街に寄る機会があれば是非お立ち寄りください。 最後に、貴方たちの旅路が無事なものでありますよう。 ああ、とジンはため息をついた。 「彼女は本当に元気だったよ。笑顔がまぶしかったからね。」 「そう・・・か。サンキュー、ポスティーノ。」 「何か配達物ができたら呼んでくれ。じゃあな。」 そういって郵便屋は走り去って行った。 「配達物、ねぇ。」 「じゃあ、返事でも出してみる?」 そう言ってジンは宙にいる相棒に微笑みかけた。 はじまりの言葉は、そうだな、・・・。 手紙の返信が来るのはもう少し先。 |
いつ、始まったわけでもなく いつ、終わるわけでもない そんな旅を、続けている。 それが終わるのは この世から"価値"がなくなったとき。 |
目が覚めて、これが夢だったらいいのに。 昔はそんなことを思っていた、と遠甫に話すと 愉快そうに彼は笑っていた。 そんな今が、夢ではありませんように。 |
夜、振り返るとそこに闇がある。 それは夜が作り出すのか。 それはわたくしが作り出すのか。 今でも恐れることがある。 でも、大丈夫。 わたくしのそばに、光があるから、大丈夫。 |
守ってもらうだけなのかしら? それでいいのだといってくれるけれど 私はそれに満足してはいけないと思ってる。 そんな私があなたにしてあげられることは、 そばにいることだけだけれども。 それが私の精一杯なのだけれども。 それで微笑んでくれるあなたがいるから もっとそばにいたいと、思うの。 |
どこからともなく現れた黄色い悪魔は 私から大切なものを盗み去っていった。 だから私はずっと追い続けるの。 その背中を。 悪魔から、私の心を取り戻すまで。 私の恋心を取り戻すまで。 |
一陣の風が通り抜けた。 「あら、ひさしぶりね。」 「やあ。」 現れた男に愛想笑いを振りまいた。 「今日は何の用?」 「俺が来る理由はひとつだけだろう?」 そういって男は黄色いコートをはためかせた。 いつもそうだ。それだけなのだから。 確かに、彼はわたしの客。 取引が成立したらその後はお互いの関係なんてないのは当たり前。 だけど、私は・・・。 「じゃあ、今日も頼むよ。」 「・・・・・そうね。」 この関係に日々を入れることができない。だって、この関係は 彼がドロボウで、私が情報屋で、初めて成立する関係だから。 そして今日も取引で関係を紡ぐ。 |
大地への恵みを全身で受けている男の背後に傘を差して立った。 「かぜ、ひくよ。」 「・・・そうだな。」 「ジンは、自分を大切にしなさ過ぎるよ・・・・。」 「・・・そうかもね。」 相変わらず、背を向けたままでジンは言う。 そんな彼に後から傘をさした。 「お願いだから・・・・これ以上心配させないで。」 それでもジンは振り向かない。 お願いだから、風邪を引かないで。 お願いだから、自分を犠牲にしないで。 おねがいだから・・・・一人で泣かないで。 いつまでたっても振り向いてくれない背中に、 そっと額を当てて涙を流した。 |
それは天から与えられたもの。 「仁獣、なんてうそっぱちだ・・・。」 今日も陽子は庭園のどこかで膝を抱えてつぶやく。 それは己が半身と言い合った後、必ず。 「仁。この言葉がすごく嘘くさく聞こえてくる。」 くつくつと足元から笑い声が聞こえてくる。 使令の班渠が影の中にいるのだ。 「笑え、班渠。笑ってくれるほうが心が晴れる。」 『そうでございましょうか?』 「ああ。仁の意味をますます疑わしいものにしてくれる気がするぞ。」 『私の笑いはその意味をますます固めるものとなるでしょう。』 「は?」 陽子が聞き返したところで班渠の気配は消えた。 それと同時に背後で草を踏む音がする。 振り返って目を軽く見開く。 『仁がなかったら貴女を迎えに来ませんよ、台輔は。』 その言葉は女王にも、主である麒麟にも届かない。 |
「あれ・・・・?」 目を開けると見知らぬ風景。というより、 真っ白な世界。 「ああ、呼ばれたのか。」 そう、納得して一度目を閉じてから前を見据えた。 白い陽炎が、立ち上っている。 喚べと言われているのは分かっている。 だけど、それはできない。 それをしてしまうと、きっとそこで終わってしまう。 私ができることはまだあるはずだから。 まだまだ頑張りたい。 まだまだ笑いたい。 まだまだ良くしたい、この世界を。 「だから、まだまって。」 そして私は日常を過ごす。 自分の内側で陽炎がゆれるのを感じながら。 |
そらが、こんなにひろい。 「すーずー?」 「あ、広梨。」 顔を覗き込んできた広梨に苑上は笑顔を向けた。 「上を見上げてどうしたんだ?」 「空を見ていたの。」 「空?」 広梨もつられて上を見上げる。今日はいい天気で太陽は燦燦と降り注ぎ、 小さくて真っ白な雲が風でゆったりと流れている。 「都の宮では・・・。」 苑上が空を見上げながら言った。 「御簾の中で、誰の目にも触れないように、生きていたから。」 「そ・・・・か。」 なんと返事をしていいのか広梨には分からなかった。 女皇の暮らしは贅沢で、何不自由ないものだとずっと信じていたから、 苑上の話を聞いていると自分の今までの考えが恥ずかしいものに思えてくる。 「籠の中で飼われている鳥だったのね、わたくし。」 世間知らずで、綺麗なものだけ見て、与えられるものに満足していた。 「でも、今は違うから。」 空から視線を丘の上に向けた苑上。それにならって広梨も丘の上を見る。 二連が馬を馴らす為に駆け回っている。 「今は籠の中から見ていた狭い空じゃなくて、何も視界をさえぎらない空が見える。 それに今は囲いも無い。」 自由だ、ということを全身で苑上は表した。両手を広げてくるりと一回りする。 「ね、自由。」 花が咲くような笑みを苑上は浮かべた。 「・・・そうだな。」 広梨も微笑み返した。 「じゃあ、自由になった鳥さん、旦那さんのところへ行きますか!」 「ええ、いきましょう。」 2人で笑いあって、一緒に歩調を合わせて二連のところへ歩いていく。 自由をかみ締めて、自由を踏みしめて、自由を表わしながら。 その後、広梨が阿高に「鈴と何を話していた」と詰め寄られるのは別のお話。 |
ジン、という声が何度響いたことか。 ほら、また。 「ジン?どうしたの??」 「・・・・・。」 ジンは黙ったままその体を強く抱きしめた。 「怖いの?」 「・・・・。」 やっぱり黙ったまま、と彼女がこぼしたところで口を開いた。 「一寸先は闇、だから。」 「は?」 「一歩でも踏み出したら、闇の中だから。」 「私に会えなくなるかも、って思ったの?」 素直に頷いてさらに彼女の体をかき抱いた。 「そ・・・・っか。」 そして彼女はジンの体に手を回した。 「ジン、一寸先は確かに闇かもしれない。 でも、いまここにいる私たちは闇の中ではなくて光の中にいるでしょう?」 抱きしめる力を緩めて彼女の顔を覗き込んだらまぶしいくらいの笑顔で。 その笑顔とその言葉に涙が出そうだった。 「闇でも、光でも、私はジンを見失わずにそばにいるわ。」 |
「絶対にね。」 「わかってるって。」 「絶対に分かってないでしょう、ジン。」 「ん〜・・・・どうかなぁ・・・?」 目の前には、人の海。 「私、初めてここに来るの。」 「うん。」 見ず知らず、地図さえない場所。 「私、極度の方向音痴なの。」 「うん。」 ぐるりと一回転するともう分からない。 「ここではぐれたら、私、きっと死んじゃうわ。」 「かもね。」 「かもね、じゃなくって!」 彼女はありったけの力を右手にこめた。 「絶対に、離さないで。」 「わかってる。」 絶対に、その手を離さないで。 この中からあなたを見つける自信はあっても。 この中からあなたに見つけられる自信はないから。 |
「酒くっさ!」 布団に倒れこんでいる男に近づいたら強烈なアルコール臭。 「ちょっと、キール。なにこれっ!」 「・・・・酔っ払い。」 「とっととつれて出て行って頂戴!うちは介抱のためにあるんじゃないんですからね!」 世話なんて真っ平、と吐き捨てたと同時に左手にがっしり掴まれた感触。 「・・・あぇ?」 引かれて倒れこんで。 「・・・・・・・この・・・・っ!」 感じた感触は彼の唇。原因からは穏やかな寝息の音が。 「あーあ。」 あきれたような声を出すキール。掴まれた手をひっぺがして彼女は捨て台詞をひとつ。 「酔ってても酔って無くてもちゃっかり盗むんだから!」 ドロボウの性はぬけないようで。 ちゃっかり盗んだのは彼女の唇。 |
「今日は優しいな。」 「だって、落ち込んでるでしょう?」 背中に抱きついてきた彼女。普段は自分から触れようとはしないくせに。 「落ち込んでたら抱きつくのか?」 「だって、あまりにも貴方がかわいそうだから。」 臨機応変に。 接し方を変えて。 「ふ〜ん、そうなんだ。」 ちょっと納得のいった様ないかない様な曖昧な返事をすると彼女は耳元で囁いた。 「全てはあなた次第よ、ジン。」 |
【はい、もしもし。】 【オレです。】 【ああ、ジン。】 【ああ、って何?】 【そういうあんたこそ、何?電話なんてしてきて。】 【・・・・・。なんとなく。】 【あっそ・・・・・っきゃ!】 【え、なに?】 【なんでもないわ・・・・。】 【・・・・。】 【ナニその無言は!】 【べつに・・・。】 【そんな言い方されたらきに・・・・ってちょ、変なところ触らないでよ!】 【! やっぱり何かあるんだ。】 【大したことじゃない。それよりあんたはどうなのよ、ジン?】 【オレ?】 【元気?ご飯食べてる?ちゃんとしたところで寝てる?キールはまだ寿命きてない?】 【元気だよ、飯も食べてるし宿に泊まってる。キールは・・・まだじいさんにはなってないぜ。・・・ってキール痛いって!】 【その分だったら大丈夫そうね、良かった。】 【・・・・あ】 【やっ、抱きつかないでよ!!】 【!?】 【んも〜・・・・あ、ごめんね、ジン。】 【・・・やっぱり何かあるだろう?】 【ないってば!】 【嘘だ。】 【何を根拠にそうおっしゃるのか知りたいですわ!!】 【・・・・・声が。】 【はぁ?声?そんな聞いただけで断定しちゃうの?失礼しちゃうわ!】 【・・・・・もういい。】 【あっそ。】 【・・・・・。】 【・・・・・。】 【・・・・・・・・・・・・・・・・・。】 【・・・・・ジン、最後にひとつだけ。】 【?】 【そんなに疑うなら会いに来て確かめなさいよっ!】 【・・・・そうする。】 【っ!!・・・じゃあねっ!】 がちゃんっ 「何々、彼氏?」 「知らないっ!」 「知らないって何よ?ちゃんと紹介しなさいよ〜。」 「・・・・そのうちね。その前にこの手を離してよ。」 「ちゃんと紹介するって約束したらね。」 「・・・本当に会いに来てくれたらそのときに紹介してあげるから、手を離してよ。 お母さん。」 |
「・・・・。」 あの二人がいなくなってから街は着々と変わりつつある。 時間に縛られた息苦しい場所から、緑のあふれる自由な場所へと。 「あーあ、もう一度会えないかな?」 口の中で小さく言う。 「そしたら自慢のローストチキン、ご馳走するのに。」 「じゃあ、ご馳走になるよ、俺だけね、ミラベル!」 「!?!」 そういって彼は降ってきた。 一緒に落ちた花のプールと同じ、黄色いコートをなびかせながら。 |
彼女は空を見上げた。雲ひとつない、晴天を。 そのまぶしさから目をかばうため額に手を当てる。 翳りを纏わせた視界の先には相変わらず青い空が広がっている。 彼女はあの空の海で泳いだ。もがいた。 人々の平和を望むため。誰もが平等に生きていけるようにするため。 「・・・・・・もう遠い昔ね。」 「そうかな?」 後ろから突如としてかけられる声。でも、どこかわかっていた。 だって、いつでも現れる気配がしていたから。 「土産だぜ、キルシュ。」 彼が手にしていたのは水がはられた金魚鉢。 「この水、あの空から汲んできたんだぜ。」 得意満面の笑みで言うその言葉に、笑った。 「じゃあ、この金魚鉢で泳ぐのは、私ね。」 だって、この水は、母なる者だから。 私はそこで泳ぎ、もう一度生まれる。自由な世界に。 |
手紙をもらってから、どのくらいたったのか・・・。 「絵、消さないの?」 そう聞かれることがある。でも、私の答えはいつも決まっている。 「消さない、そうだろう?」 地面に向けていた視線を隣へと移すと、さも当たり前のように彼はそこにいた。 「・・・どうして、わかるの?」 「わかるさ。だって、それはもう作品じゃないから、ね。」 「・・・うん。」 そう、もうこの絵は作品じゃない。 「それはね、フィノ。お父さんから、君への、愛情の色を表現した絆だよ。」 「・・・そうだね、これは、異端の画家の絵じゃなくて・・・。」 父親の表現した、愛情の色。 |
胸にしがみつくふわふわな感触、慣れてしまっていいのかしら? 「そのタライにはってある水にでも浸かっておきなさい。」 そういうとポルヴォーラはあっさりとタライに入る。 大夫言うことを聞くようになってきた。しつけが行き届いてきたことが実感できる。 でも、人間と違う部分が多いためか始終気を張り詰めている。 だが、それが最近は心地よい。 「・・・なんか、板についていたみたい。」 彼に言われたとおりに。 「よ、イザラ!」 そう、突如現れた彼に言われたように。 「・・・相変わらずね、あんたたち。」 「そっちもね。お母さん業はちゃんとできてる?」 にまにまと笑っているので顔面にタライの中のポルヴォーラを投げつけて一言言った。 「ポル、やっちゃいなさい。」 彼の顔が爪跡でいっぱいになったのは、しつけが行き届いているからだ! |